能ある狼は牙を隠す
何がどうなってそういうわけなんですか。
もしかして先生、単純にめんどくさいだけだったり……?
「来週のテストもこの調子で頑張れよー」
さっさと切り替えて歩き出した森先生の背中を恨めしげに見上げてから、つと窓に視線を移す。
昼休みの校庭では、男子がサッカーで盛り上がっていた。
霧島くんが素早く動き回っているのをぼんやり眺めて――
「狼谷くん?」
意外なことに、そこには狼谷くんの姿もあった。
球技大会や体育など、必要な時にしか汗をかかないイメージがあったから驚いた。
クラスの男子と当たり前のようにサッカーをして、競り合って、たまにちょっと笑って。
その様子があまりにも新鮮で、健全な男子高校生そのものだったから、しばらく見入ってしまった。
狼谷くんも年相応にはしゃいだりするんだなあ。
「あ、羊ー! なかなか戻ってこないと思ったら、そんなとこで何してんの!」
「あはは、ごめんごめん」
あかりちゃんが教室から駆け寄ってきて、カナちゃんも後ろを追いかけてくる。
「お、男子サッカーやってんのかー。あれ?」
「狼谷くんいるの、珍しいでしょ?」
「珍しいっていうか……バグってないよね、これ?」
心底不思議そうに眉をひそめるあかりちゃんが可笑しくて、私は声を上げて笑ってしまった。