能ある狼は牙を隠す
つまんなーい、と仰け反った九栗さんは、名案を思いついたかのごとく目を輝かせた。
「じゃあどんな人を彼氏にしたい?」
「えー、難しいねその質問」
「そうかな? 好きなタイプとか?」
こういう話って、修学旅行の夜とかにするんじゃないのかな。
まあ何でもいっか、と達観していた私に、突然質問の矢が飛んできた。
「白さんは?」
「え?」
「白さんの好きなタイプってどんな人?」
興味津々、といった様子で身を乗り出す九栗さんに、私は宙を見つめながら答える。
「うーん、特にこれといったのはないかなあ……」
「えー、絶対これだけは譲れない! とか、そういうのないの?」
そう言われても。
好きなタイプとか、今まで深く考えたことがなかった。
そもそも彼氏なんていたことがないし、好きな人ができても特に何も起きずに終わることが常だった。
付き合うのがどういうことなのか、が根本的に分かっていない。
期待に満ちた眼差しを向けられ続け、折れた私は懸命にそれらしい回答を模索した。
「えーと、強いて言うなら……一途な人、かな?」