能ある狼は牙を隠す



「じゃー白、頼んだぞ」


先生が手をひらひらと振って教室から出て行く。
目の前に置かれた掲示物に視線を落として、私はため息をついた。


「羊、手伝おうか?」


カナちゃんが言いつつこちらを窺う。


「ありがとう、大丈夫だよ。本当は私と狼谷くんの仕事だから……」


声が尻すぼみになってしまったのは許して欲しい。

掲示物の管理は基本的に文化委員の仕事だし、先生が任せるのも分かる。
問題はといえば、狼谷くんが今日学校に来ていないことだった。


「そう? じゃあお言葉に甘えて帰るけど……」


Nステの日だから、と付け足したカナちゃんに、私は顔を上げる。

そうだ! 今日は私の好きなアイドルが出演するんだった……録画してくるの忘れちゃったよ。

俄然やる気が出てきた。早く終わらせて帰らなきゃ。

カナちゃんの背中を名残惜しい気持ちで見送った後、私は掲示物と画鋲を手に廊下へ出た。

クラスのみんなの、進路に関する抱負とかが書いてあるプリント。
まだ二年生だけど、一応進学校だからこういうのを書かされる。

上までぴっちり貼らないと全員分はおさまらなさそう。
仕方なく椅子を持って来て、私は腕を伸ばした。


「うっ……」

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