能ある狼は牙を隠す
突然告げられた言葉に、私はひたすら首を捻った。
そんなことは絶対にないと思う。
この期に及んで嘘をつかなくても、と口を開きかけた時、
「他の女の子は、みんな俺のこと『そういう対象』としてしか見てないから。一緒にいて純粋に楽しく笑っていられるのは、羊ちゃんだけなんだ」
悲しそうに笑う彼に、口を噤んだ。
大勢の人から好意を寄せられるというのも、大変なことなのかもしれない。
彼は色恋沙汰のもつれなどない、純粋な友情を望んでいたのか、と腑に落ちる。
「そ、そっか……」
「うん。だから、時々メッセージ送ってもいい? 夏休み中も、どっか遊びに行こ?」
「えっ」
まさかそこまで発展するとは。
声を上げてしまった私に、狼谷くんは途端に表情を曇らせる。
「……だめ? 迷惑?」
「め、迷惑だなんてそんな……!」
とんでもない。むしろ私と遊びに行って楽しいのかな、と不安になる。
目に見えて落ち込む狼谷くんに、慌てて言い募った。
「大丈夫だよ! 全然大丈夫! 私で良ければ遊びに行こう……!」
「ほんと?」
「うん、ほんと!」
ぎゅっと彼の手を握り返すと、狼谷くんは破顔する。
「……嬉しい。ありがとう」