能ある狼は牙を隠す
安分守己
ようやっと、夏休みが幕を開けた。
それなのになぜ早速学校に行かなければならないんだろう、と少々憂鬱だ。
夏期講習は午前中で終わるとはいえ、ないに越したことはない。
ピロン、と軽快な音を立ててスマホが震えた。
髪を結ってから画面を確認して、今度は自分が震え上がる。
「えっ、か、狼谷くん!?」
何度もタップしたりリロードしたりしたけれど、そこに映るのは変わらない。
狼谷くんからのメッセージだった。
『おはよう』
それだけの簡潔なものだった。
とはいえ、彼から本当に連絡が来るとは思わなかったから本当に驚いた。
「お、は、よ、う、っと……」
文字を打ち込みながら、こんなたわいもない挨拶をするくらいに仲良くしてくれるってことなのか、と感慨深くなる。
文章だけでは素っ気ない気がして、スタンプを一つ送信した。
狼谷くんと傘を共有して帰った日、私は思い切って彼になぜ一週間も休んでいたのかと聞いた。
返答は「熱でうなされていたから」といったもので。
『実はめっちゃ具合悪くて。金曜日、無視しちゃってごめんね』