能ある狼は牙を隠す


ふは、と吹き出した彼に、目を見開く。

最近、狼谷くんは本当によく笑うなあ。
いろんな表情を見せてくれるようになった気がする。


「だ、だって、優しすぎだよ」

「そんなことないよ。ちょっと気になっただけだから」


分かんないとこ出てきたら言ってね、と付け足して、狼谷くんは自分の席へ戻っていった。

それを呆然と眺めていると、前方からカナちゃんが「ちょっと」と身を乗り出してくる。


「なに今の!? びっくりしたんだけど!」

「うん、私もびっくりしたよ……」

「いやまあ前から片鱗はあったけどさ……こんな普通に話しかけてくるのは意外だったなあ」


さらにメッセージのやり取りもしてるだなんて言ったら、卒倒ものだろう。

カナちゃんは私の顔をじっと見て呟いた。


「羊、懐かれたね」


正しい表現かどうかは置いといて、確かにそれは私も思う。


「……いや、見つかったっていう方が正しいのかな」


と訂正したカナちゃんに、思わず首を傾げた。
狼谷くんから逃げたり隠れたりした覚えはないんだけどなあ。


「えー! いいじゃん楽しそう、行こ!」

< 155 / 597 >

この作品をシェア

pagetop