能ある狼は牙を隠す
教室の後方が何やら騒がしい。
顔だけ向けて見ると、比較的いつも一緒にいる男女数名が話に花を咲かせていた。
夏休み中の遊びに行く予定をすり合わせているようで、その表情は明るい。
「じゃあ、三十一日の五時集合ね!」
「浴衣着ちゃおうかな〜」
「せっかくだもん、着ないと損だよ!」
花火大会にでも行くのかな、と勝手に憶測をして視線を前に戻す。
そういうイベントはやっぱりカップルで行くイメージがあるから、友達とはあまり「行こう」という話にならなかった。
実際、人が多いところは好きじゃないし、積極的に参加したいとも思わない。
少しだけ、ほんの少しだけ憧れたりはするけれど。
「はあ、いいなあリア充。輝いてるわあ」
未だに後方を眺めたままのカナちゃんは、恨めしげにそう零した。
「えっ、あそこのグループって付き合ってるの?」
「いーや。そうじゃないけど、男女混ざってたら何か疑似恋愛って感じするじゃん」
カナちゃんが言うことも分からなくはない。
一年生の頃も、よく遊びに行っていた男女グループがいたけれど、その時は一組カップルができていたような。
そんなことより、勉強の方をどうにかしなければ。
思い直して、私は深々とため息をついた。