能ある狼は牙を隠す
*
「……どうしよう」
いや、どうしたもこうしたもない。
手の中で振動し続けるスマホを見つめながら、私は意を決して画面をタップした。
「も、もしもし」
「もしもし。羊ちゃん?」
「はっ、はい! 白です!」
何でそんなに緊張してるの、と受話口から狼谷くんの声が聞こえる。
……逆にどうして緊張しないのかを教えて欲しい。
宿題をする気にもなれず、リビングでテレビをぼんやり鑑賞していた時、事件は起こった。
かかってくるはずのない人から電話がかかってきたのだ。
「いま時間大丈夫?」
「え、と……うん、大丈夫だよ」
時間の心配は非常に有難いのだけれど、正直心の準備の方が全くもって大丈夫ではない。
「ごめんね、急にかけちゃって。ちょっと話したいことがあったんだけど、学校だとゆっくり話せないから」
そう前置いた狼谷くんは、ゆったりとした口調で続ける。
「前にさ、夏休み遊びに行こうって言ったの、覚えてる?」
「え、」
覚えてるというか――あれって社交辞令じゃなかったんだ!?
ここに来てその話題が上がると思っていなかったから、完全に気の抜けた声が出た。
「あれ、忘れちゃった?」
「……どうしよう」
いや、どうしたもこうしたもない。
手の中で振動し続けるスマホを見つめながら、私は意を決して画面をタップした。
「も、もしもし」
「もしもし。羊ちゃん?」
「はっ、はい! 白です!」
何でそんなに緊張してるの、と受話口から狼谷くんの声が聞こえる。
……逆にどうして緊張しないのかを教えて欲しい。
宿題をする気にもなれず、リビングでテレビをぼんやり鑑賞していた時、事件は起こった。
かかってくるはずのない人から電話がかかってきたのだ。
「いま時間大丈夫?」
「え、と……うん、大丈夫だよ」
時間の心配は非常に有難いのだけれど、正直心の準備の方が全くもって大丈夫ではない。
「ごめんね、急にかけちゃって。ちょっと話したいことがあったんだけど、学校だとゆっくり話せないから」
そう前置いた狼谷くんは、ゆったりとした口調で続ける。
「前にさ、夏休み遊びに行こうって言ったの、覚えてる?」
「え、」
覚えてるというか――あれって社交辞令じゃなかったんだ!?
ここに来てその話題が上がると思っていなかったから、完全に気の抜けた声が出た。
「あれ、忘れちゃった?」