能ある狼は牙を隠す
黙り込んだ私に、そんな質問が飛んでくる。
我に返って「覚えてるよ!」と慌てて返すと、向こうから小さい笑い声がした。
その音が耳元で震えて、何だかくすぐったい。
電話越しに聞く狼谷くんの声は、いつもより落ち着いていて、柔らかくて、低かった。
「今月末とかどうかな。忙しい?」
「ううん、全然! いつでも大丈夫だよ」
カナちゃんやあかりちゃんと遊びに行くといっても日にちはまだ決まっていないし、それもしょっちゅうというわけではない。
私の返答に「良かった」と吐息混じりで吐き出した彼の言葉に、体が固まってしまう。
普段では絶対に有り得ない距離で狼谷くんと会話をしているような気分だ。心臓がばくばくとうるさい。
「あの、さ。一緒に行きたいところがあるんだけど……」
珍しく歯切れの悪い彼に、スマホを持つ手に力がこもる。
「風鈴祭りっていうのがあるんだって。夜になると屋台とかも出るらしくて、だからその、」
あー、と唸るような声で言い淀む狼谷くんに、思わず頬が緩んだ。
お祭りなんかには興味がなさそうなのに、行きたいと誘ってくる様子は何とも意外で微笑ましい。
「ふふっ」
「羊ちゃん?」