能ある狼は牙を隠す
声を出したからといって限界突破できるわけでもないのに、なんか踏ん張ってしまう。
思い切り伸ばした腕は、僅かに画鋲を刺したい位置に届かない。
「何してるの」
背後から突然声をかけられて驚いた。
その拍子に手からプリントがするりと抜けていって、床に着地する。
狼谷くんはそのプリントを軽く屈んで拾うと、こちらに歩み寄って来た。
「え、狼谷くん……何で、」
「何でって、今日委員会じゃないの?」
さも当然のごとく言ってのけた彼だけれど、私は呆気にとられた。
今日一日いなかったのに、わざわざ委員会のためだけに来たってこと?
分からない。全く理解できない。謎すぎる。
「今日はないんだって。先生が言ってたよ」
「ふーん」
私の言葉に、狼谷くんはつまらなさそうに返事をした。
「あの、狼谷くん……一つ、お願いがあるんですが」
「何?」
「ちょっとだけでいいから手伝ってもらえないかな。上の方、貼ってもらうだけでいいから」
椅子に乗ったまま頼み込む私を、彼は数秒見つめて、それから自分の鞄を床に置いた。
「手伝うもなにも、それ文化委員の仕事でしょ」