能ある狼は牙を隠す
*
「おい、玄。いい加減開けろよ」
自分の部屋のベッドに寝転んでいると、そんな声がドア越しに飛んで来る。
返事のない俺に、岬は昨日と同様「明日は来いよ」と言い残して帰っていった。
あの日、どうやって帰ったのかも、家に着いたあとどうしたのかも、全く覚えていない。
確かに感じたのはずっと胸を刺し続ける痛みだけで、自分は死ぬのだろうかと本気で思った。
週明け、学校に向かう気力も体力もなく、丸一日サボった。
思えば久しぶりだ。最近は朝から夕方までちゃんと受けていたから。
『狼谷くん、すごい……何者……?』
閉じた瞼の裏に、羊ちゃんの顔が浮かぶ。
『わ〜……ほんとに魔法みたいだよ、やっぱり狼谷くん魔法使いなのかなあ……』
『やっぱりって何』
目をぱちくりとさせて、興奮気味に俺を評価した彼女。
そのあどけない笑顔は今でもはっきりと思い出せる。
笑ってくれるのが、褒めてくれるのが嬉しくて、積極的に彼女を探すようになった。
目が合った時、ふわりと柔らかい笑みを零す様がどうにも忘れられない。
分かってる。
今まで経験したことのない胸の高鳴りは、彼女に対する自分の気持ちを表すのに十分すぎた。
「あー……まじか」
「おい、玄。いい加減開けろよ」
自分の部屋のベッドに寝転んでいると、そんな声がドア越しに飛んで来る。
返事のない俺に、岬は昨日と同様「明日は来いよ」と言い残して帰っていった。
あの日、どうやって帰ったのかも、家に着いたあとどうしたのかも、全く覚えていない。
確かに感じたのはずっと胸を刺し続ける痛みだけで、自分は死ぬのだろうかと本気で思った。
週明け、学校に向かう気力も体力もなく、丸一日サボった。
思えば久しぶりだ。最近は朝から夕方までちゃんと受けていたから。
『狼谷くん、すごい……何者……?』
閉じた瞼の裏に、羊ちゃんの顔が浮かぶ。
『わ〜……ほんとに魔法みたいだよ、やっぱり狼谷くん魔法使いなのかなあ……』
『やっぱりって何』
目をぱちくりとさせて、興奮気味に俺を評価した彼女。
そのあどけない笑顔は今でもはっきりと思い出せる。
笑ってくれるのが、褒めてくれるのが嬉しくて、積極的に彼女を探すようになった。
目が合った時、ふわりと柔らかい笑みを零す様がどうにも忘れられない。
分かってる。
今まで経験したことのない胸の高鳴りは、彼女に対する自分の気持ちを表すのに十分すぎた。
「あー……まじか」