能ある狼は牙を隠す
今から行っても間に合わないかもしれない。いや、たぶん間に合わない。
冷静な自分が「行ってどうするんだ」と諭してくる。
でもそれは、ほんの些細な抵抗だった。
今の自分を突き動かしているのは本能的な何かで、分からない、分からないが今すぐ彼女に会いに行きたかった。
「委員会って……もう終わるだろ」
「うるさい」
「玄!」
今は一分一秒が惜しい。
徐々に強まる雨足に、俺はそのまま家を飛び出した。
『私、狼谷くんの笑った顔好きだなあ』
『お誕生日おめでとう!』
『狼谷くんはすごく優しくて、丁寧で、いい人だよ。ちゃんと話せば分かると思う!』
羊ちゃん、羊ちゃん、――ねえ羊ちゃん。
俺を見つけてくれてありがとう。俺の前を照らしてくれてありがとう。
どうか許して。こんなクズが、君みたいな眩しい子に焦がれてしまうことを、どうか。
綺麗で穢れのない君の瞳に映りたいと思ってしまったことを、許して欲しい。
そして願わくば――また、君の隣を歩きたい。