能ある狼は牙を隠す


椅子貸して、と協力的な申し込みに、今度は私が彼を凝視する番だった。


「羊ちゃん。どいて」

「え! は、はい!」

「肩車して欲しいなら、どかなくていいけど」

「どきます! 今すぐ!」


狼谷くんが上、私が下を担当することになって、作業はとてもスムーズに進んだ。

時折視線を上に投げると、狼谷くんが丁寧にプリントを押さえているのが目に入る。
全然曲がっていなくて、綺麗に貼られていく。


「……羊ちゃん、手ぇ止まってるけど」

「ご、ごめん!」


怒られてしまった。
でも何だか少しだけ楽しくなってきて、私は思わず肩を揺らす。


「ふふっ」

「何笑ってんの」

「狼谷くん、几帳面だね。さっきからすごい丁寧に貼ってるもん」


笑われた本人は不服そうに顔をしかめて、椅子から下りる。
そして私の方に近付いてくると、ぐっと顔を寄せた。


「痛っ!」


何かと思ったら。
強烈なデコピンをお見舞いされて、遠慮なく声を上げる。


「ほら、プリント貸して。俺の方が綺麗に貼れるから」

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