能ある狼は牙を隠す
多事多難
天気予報によると、今日は快晴だった。
それが外れることもなく、朝から太陽が眩しい。
一週間の夏期講習も終わって、ようやく本当の夏休みだ。
特にこれといった予定もなく、クーラーのきいた快適な家でアイスを堪能すること数日。
「じゃあ行ってくるね」
久しぶりに押し入れから引っ張り出してきたワンピースを着て、これまたしばらく眠っていたサンダルを履いて。
いつもより念入りに髪を整えて、玄関でお母さんにそう言った。
「行ってらっしゃい。帰りは遅くなるの?」
「ううん、そんなにかからないと思う。帰る時に連絡するね」
「はーい。気を付けてね」
ドアを開けた途端、むわっとした空気が体にまとわりついてくる。
私は案外それが嫌いじゃない。夏だなあって気がして、ちょっと気分が上がるから。
最寄り駅から普段はあまり行かない方面の電車に乗って、間違えてないだろうかと何度も確認した。
念のため随分早めに家を出たし、多分大丈夫だと思う。
電車に揺られながら、暇を持て余してスマホを操作する。
『風鈴祭り』