能ある狼は牙を隠す
謝る彼に、私はぶんぶんと首を振った。
こんなに早く着いたのは完全に自分のせいだし、狼谷くんは悪くない。
「はあ……もう最悪、羊ちゃん待たせるとか……」
「え! えっと、本当に気にしなくていいよ!? むしろごめんね、私が不安で早く来すぎただけだから!」
片手で顔を覆って息を吐く狼谷くんに、必死に言い募る。
全然顔を上げてくれない。困った。
「あ、あのね、ここすごく色んな音が聞こえて楽しいよ! 虫の声とか、木が揺れる音とか……狼谷くんを待ってる時間、全然苦じゃなかったから、ほんとに、気にしないで」
さっき買ったばかりのペットボトルを彼に差し出す。
すると、それを視界に入れた狼谷くんが不思議そうに私を見た。ほっとして笑いかける。
「狼谷くんも暑かったよね、水分取ろう? ごめんね、ちょっとだけぬるいけど……」
よく見れば彼は汗をかいているし、結果的にそこまで待っていないし、そんなに落ち込まないで欲しい。
「狼谷くん、こんなに早く来て私を待ってくれようとしてたんだね。ありがとう」