能ある狼は牙を隠す
メールを終えて、はたと気が付く。
狼谷くんは「風鈴祭りに」一緒に行こうと誘ってくれたけれど、お祭り自体は夕方からだ。
わざわざこんな早く待ち合わせしてしまって、彼の時間を割いてもらっている。
ちゃんと開始時間を調べておけば良かったなあ。
狼谷くんの提案してくれた時間に、深く考えずに了承してしまった。
一日中私と一緒にいて、つまらなくないだろうか。急に不安になってきた。
「羊ちゃん、お待たせ」
「わっ」
「なに、どしたの慌てて」
スマホの画面を伏せ、狼谷くんを見上げる。
「……退屈じゃ、ない?」
私の問いに、彼はしばらく黙ったままだった。
「退屈って……俺が? 何で?」
やがて口を開いた狼谷くんは、純粋に訳が分からない、といった様子で聞いてくる。
自分って卑屈だなあと思う。
でも仕方ない。私は飛び抜けた取り柄があるわけじゃないし、こんなにキラキラとした狼谷くんに優しくしてもらうほど、怖くなってしまうのだ。
「え、えっと……私、あんまり気の利いたこと言えないし、狼谷くんに色々気を遣わせてるんじゃないかと思って」