能ある狼は牙を隠す


そんな皮肉を言って、私の手元から半分プリントを奪っていく。

いつの間にか上半分は貼り終わっていて、狼谷くんはその一つ下の列にとりかかろうとしていた。


「え、あ、ごめんね! 半分も貼ってくれたんだ……! もう大丈夫だよ!」


手伝ってとお願いしておきながら、どちらかというと私の方がサボっている。


「だから、俺も文化委員なんだって。ボランティアでこんな面倒なことしないよ」


言外に二人の仕事だと言われている。
それが嬉しくて、私は大人しく作業に戻った。

狼谷くんはもしかしたら、結構真面目なのかもしれない。
何だかんだ委員会には参加するし、こうしてちゃんと仕事をしてくれる。


「なーに楽しそうにやってんのー、玄」


終わりかけに廊下の奥からそんな声が飛んできて、私は振り返った。
いつも女の子が駆け寄って来る印象があったけれど、今回は違うようだ。


「この後カラオケ行くっしょ? 早く終わらしてよ」


ポケットに手を入れて気だるげに問うているのは、同じクラスの津山(つやま)くん。
明るめな茶色の頭髪に、甘いマスクが特徴的な男の子だ。


「あ、白さんも来る?」

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