能ある狼は牙を隠す


本当は素直に喜びたい。
でも時々、周りからの目が気になってしまう。


『だから、深入りしない方がいいよ』


津山くんの言葉が、いつもストッパーとなって私を冷静にさせてくれる。
その通りだ。私なんかが狼谷くんを分かったつもりでいるなんて、おこがましい。


「――なに考えてるの?」


やけに鮮明に聞こえた声。
顔を上げると、狼谷くんは身を乗り出していた。


「羊ちゃんはそんなこと気にしなくていいんだよ。俺が勝手に構ってるだけなんだから」


その目は。
有無を言わさない目だ。奥底に暗いものが沈んでいて、私を縫い付けるように、捕食するかのように鋭い視線。


「それとも、」


彼が唇の端を持ち上げる。


「誰かに何か言われた?」


瞬間、ぞわりと背筋が震えた。
口元は確かに笑みを浮かべているはずなのに、それ以外の部分が全く笑っていない。

私の反応に目敏く気が付いた狼谷くんは、その無機質な笑顔を崩して問い詰めてきた。


「誰? こないだの女子? 男だったら絶対許さないんだけど――」


肩が跳ねる。彼の目が、動いた。


「男なの?」

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