能ある狼は牙を隠す
悲鳴を上げそうになった。
こんな狼谷くんは知らない。見てはいけないものを見てしまったような気がする。
「へえ……そっか。言ってごらん? 羊ちゃんにそんなこと考えさせてるのは誰?」
そっと顎に手を添えられ、強制的に彼と目が合った。
だめだ。無理、怖い。全然知らない男の人みたい。
「……や、」
「羊ちゃん――」
目の前の彼の顔が歪む。
たちまち視界がぼやけて、喉の奥が熱くなった。
「やだ……やだよ、戻って、狼谷くんっ」
「え……あ、羊ちゃん……ごめん、泣かないで……」
狼谷くんが何か得体の知れないものに乗っ取られてしまったようで怖い。
「ああ……ごめん、ごめんね……びっくりしたよね、ごめん……」
彼の指が私の目尻を拭った。
少しクリアになった視界に、狼谷くんの困りきった顔が映り込む。
「つ、津山、くんが」
「うん……?」
ここで嘘をついても、きっと良くない。
正直に話した上で、津山くんは悪くないんだとちゃんと弁解しよう。
「前に、津山くんと話した時……ちょっとだけ、色々」
「岬に? 言われたの?」