能ある狼は牙を隠す
再び狼谷くんの目が光る。
「で、でも! 違うの。津山くんは、親切心で言ってくれただけだから……」
二人の仲がこじれてしまうのは絶対に避けたい。
慌てて説明するも、狼谷くんは眉間に皺を寄せたままだ。
ちっ、と音が聞こえて、私は今度こそ凍りついてしまった。
「あいつ、余計なこと言いやがって……」
舌打ち!? いま舌打ちしたんだよね!?
狼谷くんはいつも優しいから忘れていた。
私に対しては喜怒哀楽の「喜」と「楽」しかぶつけてこないし、彼が怒ったところを目の当たりにして心底驚いている。
当たり前だけど、狼谷くんも怒るんだ。
しかも、今まで出会った中で一番怒らせちゃいけない人だと思う。
「あああ違う、違うよ! ごめん、ほんとに津山くんは悪くないの、お願いだから怒んないで……」
声が震えた。怖々と彼の袖を引くと、狼谷くんはその私の手を優しく包む。
「ああ、ごめん、大丈夫。あいつにはちゃんと言っておくから。羊ちゃんは何にも気にしなくていいからね」
彼はあやすような口調で私の手を撫でた。
そしてそのまま自分の顔まで持っていくと、頬を寄せて微笑む。
「怖がらせてごめんね」