能ある狼は牙を隠す
知略縦横
「あの、ごめんね。本当にありがとう……」
夕焼け雲が空を侵食していく。
浴衣を着た人とすれ違う頻度が増えてきて、夏を実感した。
「いいよ、あのくらい。今日は俺が誘ったんだから」
狼谷くんが言いつつ笑う。
結局、お店のお会計は彼が済ませてくれていたみたいで。
自分の分は払いたい、払わせて、と何度も頼んだけれど、狼谷くんは断固として首を縦に振らなかった。
「ほら羊ちゃん、見て」
彼の声に誘われるように顔を上げる。
「わ、すごい……」
石畳の道をぐるりと囲うように設置された木枠。
無数の風鈴がそこに取り付けられて、ちらちらと揺れていた。
そっか、だから風鈴祭りっていうんだね。シンボルみたいなものなのかな。
「あっち行ってみようか」
「うん!」
気温は少しずつ下がってきた。
ちりん、ちりん、と涼やかな音色が耳に心地いい。
「こんなにいっぱい……トンネルみたいだね」
両脇にも、頭上にも。色とりどりのガラスが私たちを迎えてくれる。
趣深いというか、日本の文化だなって感じがする。
食べ物も和食の方が好きだし、お菓子も和菓子の方が好き。お味噌汁を飲むと安心する。
「うん。すごい、綺麗」