能ある狼は牙を隠す
否定も肯定もせず、狼谷くんは笑っていた。
私がよく見る笑顔とはちょっと違う。まるで悪戯を成功した時のような、どこか不透明な笑い方。
なぜかその表情を見て、背筋が伸びた。
「ほらほら、邪魔しちゃ悪いでしょ。行こ!」
「そうだねー。じゃあ二人とも、また休み明けね!」
からんころんと下駄を鳴らして、みんなが通り過ぎていく。
それを呆然と眺めてから、私は我に返った。
「あっ、狼谷くん……手、離さない……?」
今更かもしれないけれど、また誰かに見られたら困る。
私の提案に、狼谷くんは「そうだね」とすんなり距離を取った。
「まさか知り合いに会うとは思ってなかった……タイミング悪かったね。ごめん」
「いやいや大丈夫だよ、仕方ないよ!」
狼谷くんの目がすごく悲しそうだったから、こっちが申し訳なくなる。
ほんとに、こればっかりは仕方ない。わざとじゃないし。
「でも、噂になっちゃうかも。俺のせいで変な誤解されただろうし……」