能ある狼は牙を隠す
まさかこちらに矛先が向けられるとは思っていなかった。
咄嗟にぶんぶんと首を振ると、津山くんは「えー」と少し不満げに笑う。
「玄と二人きりがいい感じー? 俺とも仲良くしてよ」
「そ、そんなんじゃなくて……! 二人の邪魔したら悪いから……」
「え?」
私の返答に首を傾げた津山くんは、狼谷くんの方に視線を投げた。
「なに、玄。この子ともしたんじゃないの?」
「してない」
「えー、珍し。今日これからってこと?」
「しない」
淡々と返す狼谷くんに、津山くんはしばし黙り込む。
それからにやりと口角を上げると、こちらに一歩、二歩と近付いてきた。
「ねえ、白さん」
「はい?」
「俺と『友達』になってよ」
差し出された手に、握手かな、と思い至る。
それを握ろうとして腕を上げた時、狼谷くんが津山くんの手を払った。
「岬、この子はだめ」
「え〜ケチ。一人くらいいいじゃん」
口を尖らせる津山くんに、狼谷くんは私をちらりと見てからもう一度「だめ」と告げる。
「この子は、俺の友達だから」
彼の言葉に、私は先週の出来事を思い出した。
――羊ちゃん、俺と『お友達』になる?
狼谷くんのその問いかけに、私は。
――普通の友達なら、喜んで。
「友達、ねえ……」
津山くんの呟きが、放課後の廊下に溶けていった。