能ある狼は牙を隠す
答えたと同時に、手のひらが温かいものに包まれた。
狼谷くんに触られたところから伝染するように熱くなっていく。
「らっしゃーい」
漂うソースの匂い。それを胸いっぱいに吸い込んで、私は屋台のおじさんに注文する。
「たこ焼き一つください」
「はいよ!」
財布を取り出そうとした時、横からすっと腕が伸びてきた。
「まいどー!」
目の前で行われる物々交換。
狼谷くんが小銭をおじさんに手渡して、プラスチック容器を一つ受け取った。
「え、狼谷くん……!」
さっきご馳走になってしまったから、せめてここは私が払おうと思ったのに。
「出させてよ。今日付き合ってくれたお礼と、さっきのお詫び」
「そんな、申し訳ないよ! 狼谷くんだけのせいじゃないし……」
「じゃあ、これはお願い。こうしないと俺の気が済まないから、奢られて?」
「狼谷くん〜……」
なんて優しいんだ……。
こんなに良くしてもらって、私なんにも狼谷くんに返せていない。
「ほら、座れるとこ行こう。こっちに花火見える場所あるらしいから」