能ある狼は牙を隠す
促されるまま歩いていくと、屋台の陳列が途絶えてひらけたところに着いた。
地べたに座り込んでいる人もちらほらいて、ここで花火を鑑賞するみたいだ。
すると、狼谷くんはおもむろに自身のシャツを脱ぎ始めた。
びっくりしすぎて固まっていると、彼はそれを地面に敷いて微笑む。
「ここ、座っていいよ」
良かった、中にティーシャツ着てたんだ。……って、いやいやそんなことよりも。
「ええ!? む、無理だよ! 狼谷くんの服の上なんて座れないよ!」
「そのまま座ったら羊ちゃんの服が汚れちゃうよ?」
「お互い様だよ!? それくらい大丈夫だから!」
石畳になっているから、全然大したことないのに。
そこまで気を遣われるとは思わなかった。
頑なに動かない私に、狼谷くんは腰を下ろす。
「ほら、おいで?」
ぽんぽん、と隣の空間を叩く彼に、根負けしてしまった。
当人が座ってまで言ってくれているんだから、ここで断るとさすがに無粋だ。
「ありがとう……お邪魔します……」
「はい、どうぞ」
そう答えた狼谷くんがクスクスと肩を揺らす。楽しそうなのが唯一の救いだ。
「羊ちゃんは夏休み中なにするの」