能ある狼は牙を隠す
そう言って体を離した狼谷くんに、はああ、と項垂れる。
「びっくりしたー……ありがとう」
いちいち暴走する自分の心臓が情けなかった。
狼谷くんは女の子の扱いに慣れているんだから、こんなことで動揺していてはきりがない。
汗の滲んだ手を握りしめ、気合いを入れ直す。
と、自分は汗臭くなかっただろうかと猛烈に心配になった。
「あ、あの、狼谷くん……私、汗臭くなかった……?」
「え? 全然。俺の方が汗かいてるよ」
「ええ……? いや、いい匂いしたからそんなことないと思うけど……」
そこまで口走ってから、失言だったかもしれないと思い至る。
いい匂いしたとか、絶対余計なことを言ってしまった。なんか変態みたいだ。
「羊ちゃん、この匂い好き?」
「えっ、うん……」
「そっか。じゃあ普段からつけようかな」
あ、狼谷くん、香水みたいなのつけてたのかな。
さすがやっぱり上級者は違う。私もそういうの、そろそろ買った方がいいんだろうか……。
「俺も羊ちゃんの匂い好き」
「え!? 何もつけてないよ!?」
「そうなの?」