能ある狼は牙を隠す
SS 月下氷人 ―Kana Nisimoto―
思えば確かに、引っかかることは沢山あった。
まさか――勝手にそう決めつけていただけで。
「カナちゃ〜ん! おはよう!」
窓の外を見つめながら考え事をしていたら、羊が乗ってくる停留所に着いていたらしい。
右側の後ろから二番目。それがいつも私たちの座る特等席だった。
隣に腰を下ろした羊に「おはよう」と返して苦笑する。
「あ、カナちゃん今日ポニーテールだ! 可愛いね」
「ありがと。さすがに暑くて……」
これといって濃い内容の会話ではないけれど、毎日穏やかな時間が流れるこの空間が好きだ。
通学バスが一緒ということもあって、羊とは一年生の時に打ち解けた。
週に一度しか活動しない美術部に一緒に入部して、行きも帰りも大体二人で帰っている。
「なんかちょっと会ってないだけで久しぶりって感じするね」
「ねー。まあ今日の試合終わったらあかりも落ち着くみたいだし、予定調整しよ」
そうだね、と頷いた羊が前方に向き直る。
炎天下、学校で行われるテニス部の試合に、今日は羊と観戦に行くことになっていた。
二年生になってから仲良くなって、今ではすっかりお馴染みメンバーのあかり。テニス部で活躍する彼女の応援のためだ。
「そういえばさ、」