能ある狼は牙を隠す


地獄絵図だ。私にとってというよりかは、羊にとって。
だってさっきから可哀想なくらい動揺している。


「あ、そろそろ戻らないと。じゃあねー!」


軽快に駆けていく彼女たちに、全く何て爆弾を落としてくれたんだ、と八つ当たりしたくなった。


「……羊」

「はっ、え、カナちゃん! あのね、ごめん、えっと、今のはほんとに違くて……」

「うん、分かったから。落ち着こう」


自分もかなり動揺していたけれど、羊の慌てぶりを見ていたら少し凪いだ。

この様子からして、本当に付き合っているわけじゃなさそうだし、まあそもそも私の目が黒いうちはそんなこと許さない。


「今のは本当? 狼谷くんと行ったの?」


なんてことないような口調を心がけて問う。
羊は数秒固まった後、小さく首を縦に振った。

二人で出かけたというところにも相当驚いたけれど、最近の狼谷くんの様子からして、彼が誘ったんだろうなというのは容易に想像がつく。


「手を繋いでたっていうのは……?」


恐る恐る聞いてみた。否定して欲しいという思いは根底にありながらも。


「……う、あ、えと、繋ぎました……」

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