能ある狼は牙を隠す
たちまちほっぺを真っ赤にして、目をぎゅっと瞑った羊。
彼女のこういった仕草は、時折物凄く抱き締めてあげたくなる。
いや、今はそんなこと考えてる場合じゃなくて。
「ええ!? ほんとに繋いだの!?」
「か、カナちゃん……! 声! 声大きいよ!」
しぃ、と人差し指を立てて諭してくる羊に、軽く謝ってから続ける。
「狼谷くんから? だよね? それ同意の上だったの?」
まさかそんなことになっているとは。
いや二人で出掛けてるんだから、手くらい繋いでも何らおかしくはない。しかも相手は狼谷くんだし。
「あの、違うの。狼谷くんは気を遣ってくれただけで……」
「うん?」
「私、風鈴祭りがカップルのイベントだって知らなくて……周りから浮かないようにって、繋いでくれただけなの。あとは、はぐれないようにって」
一生懸命そう説明する羊に、それでも百戦錬磨かよ狼谷、と説教したくなる。
この子でなければ丸め込めずに終わってたよ、きっと。
「あー、うん、そっか。なるほどね……」