能ある狼は牙を隠す
そもそも、風鈴祭りに男女二人で行くということがどういう意味なのか、羊は分かっていない。
想いが通じ合っているカップルなら別段どうということはないけれど、そうじゃない場合は少し変わってくる。一種の告白じみたものなのだ。
その誘いを受けた時点で「あなたに気があります」と返事をしているようなもので、会場のすぐ側にある神社に行きお参りをするのが定石となっている。
その神社は縁結びで有名だ。
祈りを捧げた男女は神様に永遠の愛を誓い、固い絆で結ばるという。
「狼谷くんね、気まずくならないように最後の方まで黙っててくれてたの。だから普通のお祭りみたいな感じで、楽しかったよ」
とどめのような羊の言葉に、私は内心項垂れた。
ああ――遅かった。彼はもう、確実に分かってやっている。確信犯だ。
彼がそれを言わなかったのは、気遣いなどではない。
何も知らない羊を風鈴祭りに連れて行って、さも両想いの二人がやるようなことをして、そして最後の最後で種を明かす。
用意周到に外堀を埋めて、いつか逃げ出そうものなら「俺たちはこんなことをしたじゃないか」と持ち出すことも辞さないその姿勢。
――控えめに言って、執着の塊だ。
『羊ちゃんの好きな物って何?』