能ある狼は牙を隠す
そうか、だからあんなことを聞いたんだ。
純粋な興味とか、そんな生易しいものじゃない。あれは詮索されていたんだ、と――今になって理解する。
とんだプレイボーイが引っかかったものだと思っていた。
あんなクズが羊を好きになるなんて。まあ、ちょっと可哀想な気もするし、本気なら見守ってあげなくもないけど。
そうなめていたら、大火傷だ。
彼は羊を手に入れることに一切の躊躇がない。それも、絶対に抜かりのないように。
「あ、あかりちゃんだ! 手振ってくれてるよ!」
無邪気にはしゃぐ羊を横目に、私は半ばやけくそ気味に思考を飛ばす。
ねえ津山くん、あんたも分かってるんでしょ。あんたのお友達が、うちの羊にご執心だっていうのは。
だったら頼むから、羊が負担にならない程度に加減しろって忠告しておいてよ。あの男に指図できるのは唯一、あんただけなんだから。
とそこまで考えてから、
「……いや、」
オオカミの手綱を握れるのは、ヒツジだけだったな、と。
隣に座る哀れな友人を見つめて、そう思い直したのだった。