能ある狼は牙を隠す
津山くんが声を張り上げてボールを手放す。
ゴール下にいた狼谷くんの手の平にボールが吸い寄せられて、彼が放ったシュートは綺麗な弧を描いた。
「――しゃっ! ナイスー!」
ぱん、と小気味良いハイタッチが鳴り響いて、審判が笛を吹く。
その一連の流れを見ていた女子たちといえば、惚けたように顔が緩んでいた。
「さすが二年三組の二大イケメンだわ……絵になるぅ」
「ちょっと今の腹チラ! やばくない!?」
そのうちテレビでアイドルを拝まなくてもいい時代が来るのかもしれないな……としょうもないことを考えていると。
狼谷くんが突然コートから抜けて、先生の元に駆け寄った。
そして何か一言二言交わした後、先生は顔をしかめ、振り返って戻っていく狼谷くんは険しい表情だ。
何だろう?
コートに戻った狼谷くんに、津山くんが声をかける。
狼谷くんは首を振って、それからまた試合が再開した。
しばらく眺めていたけれど、何かおかしい。
狼谷くんの様子が明らかに変だ。
動きが緩慢で、ずっと眉間に皺を寄せている。
「はーい、ではそこまで。一旦休憩にします」