能ある狼は牙を隠す


吐息混じりの小さな声が、耳元で私の名前を呼ぶ。
ぞわりと変な感覚が背筋を駆け巡って、肩が震えた。


「ねえ、ちゃんと聞いてる……?」


バレてた!? 全然集中できてないの、狼谷くんにはお見通しだったんだ!

羞恥で顔が熱くなる。必死に手元のプリントを凝視して、平静を取り戻そうと努めた。


「返事してくれないってことは、聞こえてないのかな」

「えっ、あ、いや……! ごめんね、ちゃんと聞こえて――!?」


その先を言えずに固まった。
耳に柔らかいものが当たって、それから熱い吐息が流れ込んでくる。


「羊ちゃん……」

「んっ……」


どうしよう、だめだ、ほんとに、だめ。
頭が真っ白になる。体が熱くて熱くて仕方ないのに、心地よくて涙が出そう。


「ね、これでも聞こえない……?」

「あっ……や、狼谷く、」


それ以上はだめだ。狼谷くんが喋る度に彼の唇が当たって、くすぐったい。
逃れたくて身を捩ると、腰に手を回された。


「ちゃんと返事してくれないと俺、分かんないよ……」

「や……も、だめっ、狼谷くん……」

「だめじゃないでしょ。ほら、ちゃんと言って……?」

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