能ある狼は牙を隠す



「羊ちゃん、いらっしゃい」


インターホンを押して数十秒後。扉を開けて私を出迎えてくれたのは狼谷くんだ。

彼は以前二人でお祭りに行った時のような服装ではなくて、全体的にだぼっとしたゆるめの服を着ている。


「あ、あれ? 狼谷くん、眼鏡……!?」

「はは。びっくりした?」


いたずらっ子のような笑みを浮かべて、狼谷くんは小首を傾げた。

細い黒フレームの眼鏡。その奥の瞳は、穏やかに揺れている。


「暑かったでしょ。入って」

「ありがとう……! お邪魔します」


狼谷くんのお家に来るのは、今日で三回目だ。
というのも、彼の家へ入った最初の日に「次はいつ会える?」と当然のように聞かれてしまって。


『次……?』

『うん。また一緒にできたらなって思ったんだけど、だめ?』

『えっ、だめじゃないよ! ええと、明日以降だったらいつでも……!』

『じゃあ明後日。俺の家でいい?』


毎回のことだけれど、私に決定権はないと思う。いや、だからといって断る理由もない。

なんだかんだで一日おきに狼谷くんの家にお邪魔してしまっている。
さすがに申し訳なくなってきた今日は、手土産を持ってきた。


「あ、狼谷くん! これ、つまらないものですが……」

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