能ある狼は牙を隠す
紙袋を差し出した私に、狼谷くんは目を見開く。
「狼谷くん甘い物そんなに好きじゃないって言ってたから、おかきとかも入ってます! あ、でももちろん甘い物も入ってるから、ご家族で食べて――」
「覚えててくれたの?」
狼谷くんが食い気味で問うてきた。
ついさっきまで和やかな空気が流れていたはずなのに、彼の目はたちまち鋭くなる。
「え? えっと、うん……」
「そっか、ありがとう。嬉しい」
喜んでもらえたなら良かった。安堵しつつ小さく息を吐き出す。
それから前回同様、至って真面目に勉強をして――といってもやはり狼谷くんとの物理的距離は近かったけれども――夕方五時、そろそろお暇しようという時だった。
「羊ちゃん、一緒にご飯食べない?」
どのタイミングで帰宅を切り出そうか、と時計をちらちら見ていた私に、狼谷くんはそう言い放った。
「えーと……今から、だよね?」
彼の発言がにわかに信じ難く、当たり前の質問をしてしまう。
狼谷くんは頷いて、「カレー好き?」と問いを重ねた。
「カレー? うん、好きだよ。この近くでカレーのお店は……」