能ある狼は牙を隠す
検索をかけようとスマホを取り出した私に、狼谷くんは至極冷静に告げる。
「お店じゃなくて、ここで」
出前でも取るんだろうか。はて、と首を傾げると、
「親が量作りすぎて毎回困るんだよね。だから消費手伝ってくれると助かる」
「ええっ!? も、もしかして狼谷くんのお母さんが作ったカレーですか!?」
そんなの完全にプライベートすぎて私が立ち入っちゃダメな気がする……!
ただでさえ毎回快適な場所を提供してもらって、勉強もみてもらって、その上ご飯をご馳走になるだなんてことは!
「いやいやいやさすがに申し訳ないよ! 人様の家でそんな……!」
「他人が作ったものは食べたくない?」
「え!? そういうことではなくて!」
慌てて否定して、私は立ち上がる。
「と、とにかく申し訳ないので……! 今日は帰ります、ありがとう!」
そうまくし立てると、狼谷くんは「そっか」と呟いた。
「……一緒に食べてくれる人がいたら、いいなあって思ったんだけど」
普段の彼とは少し違ったトーン。
酷く寂しげな声色が耳に届いて、私は思わず息を呑む。
「ああ……ごめん、帰るんだったね。そこまで送るよ」