能ある狼は牙を隠す
私だけ? 何の話をしているんだっけ?
ああそうだ、女友達は私だけって前に言っていたような――。
まともに頭が回らない。
何度も何度も耳朶を甘噛みされて、その度に体が跳ねる。
「だ、め……狼谷くん、お願い、もう……」
「あー……やばい、おかしくなる……」
熱い吐息がかかった。
ふるりと背筋が痺れて、涙が出る。
「可愛い。舐めていい……?」
舐めるって、何を。
私の返答も聞かないうちに、狼谷くんの唇が私の目に降ってきた。そのまま涙を吸い取られる。
「ん、おいしい……」
満足そうに零す彼の声は確かに聞こえるのに、頭の中は霧がかかったようにぼんやりと重い。
こんな感覚は初めてだ。
悲しくも、痛くも、恥ずかしくもない。それなのにどうして泣きたくなるんだろう。
「耳だけでこんなになっちゃうの? ねえ羊ちゃん……」
「な、に……? 分かんないよ……」
私の知らないスキンシップが多すぎてついていけない。
必死に首を振ると、狼谷くんは昏く微笑む。
「いいんだよ、分かんなくて。全部、一から十まで俺が教えてあげるから……」
耳元で囁かれた彼の声が、どこか遠くで聞こえる気がした。