能ある狼は牙を隠す


女子担当の先生が手を叩いて指揮をとった。
今日は二時間連続で体育の時間割だ。


「私、タオル取ってくるね」

「はいよー。いってら〜」


体育館を出ると少し涼しくて、空気も爽やかな気がする。
更衣室で軽く汗を拭ってから、廊下の水飲み場に向かった。

先客がいたらしい。
男子が一人、思い切り背中を丸めて蛇口を捻っている。水を飲むというよりも、水を浴びているという方が正しい。

あれだけ走っていたら水浴びしたくもなるよね。
僅かな同情を抱えながら、私も水を飲もうと蛇口に手を伸ばした時だった。


「……狼谷くん?」


少し顔を上げた拍子に、彼だと分かった。

私の声に反応して、狼谷くんが上体を起こす。


「ああ――羊ちゃんか」


そう返した彼の顔色が悪い。元々白いのに、更に血の気が引いている。


「狼谷くん、大丈夫……じゃ、ないね」

「大丈夫だよ」


どこが!
目も何となく虚ろだし、かなり憔悴している。

私は狼谷くんのジャージの袖を引っ張りながら言った。


「保健室行こう! そんなんでまた動いたら倒れちゃうよ!」

「大丈夫だって」

「全然大丈夫そうに見えないよ!」

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