能ある狼は牙を隠す
一番最初に誘われた時は、狼谷くんと一緒にカレーを食べた。緊張しすぎてあまりその時の記憶はない。
でも日数を重ねるうちに段々と楽しめるようになってきた。ご飯の味もしっかり分かるし、狼谷くんと目が合っても体が強ばることはない。
ゆっくり顔を上げると、向こうもこちらにその瞳を向けていた。
視線が交わった瞬間、彼の目尻がふにゃりと垂れ下がる。
ん? と僅かに首を傾げる狼谷くん。その動作は柔和で穏やかで、自然と胸の中が安らいだ。
「えへへ……」
ご飯がおいしいのと、空気があったかいのと。とりあえず、幸せだなあって感じがして、頬が緩んでしまう。
でも、今までこんなに長い間彼と目が合っていたことなんてないから、少しだけ恥ずかしくなってきた。
と、狼谷くんが突然顔を逸らす。
「…………はあー……たまんなー……」
随分深いため息だ。
それにしたって、彼とのにらめっこに勝ったのは初めてだった。
「狼谷くん」
「……ごめん、十秒待って」
手の平を突き出してタイムを要求する狼谷くんに、新鮮味を感じた。そしてほんの少しの、出来心も。
「ふふ。狼谷くん、可愛い」