能ある狼は牙を隠す
へこへこと何度も頭を下げながら言い募ると、唐突に笑い声が上がった。
「あはは、やだそんなに畏まらないで〜。玄から聞いてるから、気にしないでね。ゆっくりしていって」
「ありがとうございます……」
鷹揚に手を振って答える彼女に、私はほっと胸を撫で下ろす。
優しい方で本当に良かった……。
「そっかあ。この子が『羊ちゃん』ね〜」
と、狼谷くんのお母さんは荷物を置きながら視線を逸らした。
その目が狼谷くんに向けられて、彼はといえば少しムッとした表情をつくる。
「なに」
「別に何も〜? ね、私も一緒に食べていい?」
「嫌だ」
駄々っ子のように短く言葉を発する狼谷くんに、幼さを感じて苦笑してしまった。
そんな私に視線を寄越すと、狼谷くんのお母さんが困り顔から一点、晴れやかな笑顔で伺いを立ててくる。
「羊ちゃん、私も一緒にいい?」
「えっ、も、もちろんです!」
「ありがとう〜。やっぱり女の子って可愛いわね」
さすがと言うべきか、やはり母親は息子の扱いが分かっている。
ずる、と文句を垂らした狼谷くんに、彼女は素知らぬ顔で腰を下ろした。