能ある狼は牙を隠す



「わざわざごめんね〜。帰りは玄に送らせるから」

「いえ、とんでもないです! これくらいはさせてください……」


食事を終えて、後片付けをしようといったところで。
せめてお手伝いをさせて欲しいと申し出て、私は狼谷くんのお母さんとキッチンにいた。

狼谷くんは最初こそ落ち着かない様子でこちらを窺っていたものの、お母さんに「女子だけでお話するから邪魔しないでね」と茶目っ気たっぷりに諭されて黙り込んでしまった。


「あの、ご飯本当に美味しかったです。ありがとうございます」


そうお礼を伝えた私に、隣から嬉しそうな返事が飛んでくる。


「お粗末様でした。そう言って貰えるとやっぱり作りがいがあるわ」


ちらりと横顔を盗み見た。鼻筋が綺麗で、長い睫毛が瞬きの度に揺れる。
話し方や佇まいからも分かる、凛としていて清廉な人柄。


「羊ちゃんのことはね、玄から何度か聞いたことがあるの」

「えっ」


急に振られた話題に、意図せず肩が跳ねた。
どういった趣旨のことだろう、と気になって前傾姿勢になってしまう。


「玄が『真面目』じゃないっていうのは、羊ちゃんも知ってるわよね?」

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