能ある狼は牙を隠す
ポスターを貼るのを手伝ってくれた。委員会はいつも欠かさず来てくれた。私の代わりに黒板を消してくれた。嫌な顔一つせず、勉強をみてくれた。
「あっさりしてるのかな? って最初は思ってたんですけど、色々助けてくれて。困っている人を放っておけなかったり、世話好きだったり、そんな人なんだって分かってきて……」
勉強も運動もそつなくこなして、何不自由なく笑う。そう見えた。
それなのに、彼は時々、本当に寂しそうな顔をする。
「あと、一人でも平気ですって顔してるのに、いざ帰ろうとするとしょんぼりするところとか……可愛らしいなあって、思うんです」
一つひとつ、今までの記憶を思い返すように話していた。まだ数ヶ月しか経っていないのに、カラフルで賑やかな思い出たち。
狼谷くんの笑顔を見るとすごく温かい気持ちになるし、沢山笑って欲しいなと思う。
弱気な表情も、されて嫌というわけではなくて、むしろちょっぴり嬉しくなっている自分がいた。
「そう……良かった」
きゅ、と蛇口を閉めた狼谷くんのお母さんが、静かに微笑む。
途端に自分の話していることが生意気なのでは、と思い至って、私は慌てて付け足した。
「いや、あの、私なんかが何語ってるんだって感じですよね……すみません……」