能ある狼は牙を隠す
お母様の方が狼谷くんのことを十何年と見てきたというのに!
べらべらと喋り倒してしまって本当に恥ずかしい。
「ふふ。ううん、安心した」
「安心、ですか?」
予想外の言葉に、思わず聞き返してしまった。
彼女は頷いて、それから私に向き直る。
「あなたなら安心して任せられる。これからも玄をよろしくね」
「え……?」
首を傾げた私に、狼谷くんのお母さんも「ん?」と不思議そうな顔をした。
お互い見つめ合って、何かが噛み合っていないと理解したのか、彼女の方から決定的なセリフが飛び出す。
「えっと、二人は付き合ってるのよね?」
「つ、つき……!?」
「あれ? 違った?」
とんでもない勘違いをされていたようだ。
かあ、と頭に血が上って、声が上擦ってしまう。
「ち、違います! 狼谷くんとは、ほんとにただの友達で……!」
「どうりで何だか腰が低いなあと思ったのよねえ……そっかあ、それは早とちりして申し訳なかったわ」
肩をすくめた彼女は、「でも」と続ける。
「羊ちゃんさえ良ければ、これからも仲良くしてやってね。玄は羊ちゃんのこと大好きだと思うから」
「へ……!?」