能ある狼は牙を隠す
一体何の意地を張ってるんだろう。
大変失礼なことを申し上げると、今更授業を休んだところで彼の成績には大差ない気がする。
押し問答を続けていると、狼谷くんは突然深々とため息をついて私の手を払った。
「羊ちゃん、もういいって。うざい」
手を払われたこともそうだけれど、はっきり拒絶の言葉を告げられたことに酷く驚いた。
怒っているというよりも、蔑んでいるような、そんな冷たい視線が私を刺す。
「ほんとにやばかったら適当にさぼるし。放っといて」
余計なお世話だ、干渉するな。
そんなメッセージがひしひしと伝わってくる。
私は数秒立ち尽くして、今度は狼谷くんの腕を引いた。
「え、ちょっと。何?」
私の行動が予想の斜め上をいったのか、狼谷くんは踏ん張りがきかずにそのまま数歩引き摺られる。
「何って、保健室行くんだよ」
「は? だから、いいって……」
心底不愉快そうな声色で彼が抵抗する。
そして私の腕を思い切り振り払うと、「あのさ」と唸った。
「いい人ぶってんのか恩売っておきたいのか知らないけど、まじでそういうのいらない。迷惑」