能ある狼は牙を隠す
自分からいくのは良いけど、と呟く狼谷くん。
そんなの私だってそうだ。不意打ちで揶揄われると、すぐ動揺してしまう。
すっかり立ち止まってしまった彼を観察していると、軽く袖を摘まれた。何だか小さい子みたいで、とっても可愛い。
「ふふっ」
「何で笑うの」
そう言う狼谷くんだって。
ふにゃ、と表情筋を緩めて、随分とあどけない笑顔をしている。
彼の指がそのまま下がっていって、私の指を掴んだ。
「羊ちゃん……手、繋ぎたい……」
「え、」
「だめ?」
甘えるような声を出さないで欲しい。心臓に悪いし、たちまち治まったはずの熱が戻ってきてしまう。
可愛い、とか。そう思うと私の負けだ。
「うん……いいよ」
答えた刹那、ぐっと力強く手を引かれて、彼の肩にぶつかってしまう。
ごめんね、と告げようとして顔を上げると、至近距離で狼谷くんと目が合った。
「もう離れないでね」
こつん、と額が重なる。
心臓は忙しなく動いているし、顔は熱くてたまらない。
「……羊ちゃんだけ、だから」
確かめるように彼が告げる。
狼谷くんは繋いだ手に力を込めると、熱に浮かされたような瞳でゆっくりと私を捉えた。