能ある狼は牙を隠す
どうやら先生からの伝言を伝えに来てくれたらしい。
狼谷くんは頷いて、また後で、と自分の席へ戻っていった。
その背中を眺めてから、つと前へ視線を戻し――
「ちょっと、羊」
険しい顔でカナちゃんに凄まれる。
そのオーラに少し身を引いて、私は恐る恐る尋ねた。
「えーと……カナちゃん、何か怒ってる?」
「今のは何」
今のって、どういうことだろう。
端的な彼女の言葉に答えを出しあぐねていると、続きが聞けた。
「何がどうなって狼谷くんとあんなに仲良くなったのかって聞いてるの! 確認だけど、付き合ってないんだよね?」
「ええっ、付き合ってないよ!」
「だったらどうしてあんなにベタベタしてんのよあの人は……距離感近くない?」
カナちゃんにそう指摘されて、初めて気が付いた。
まあ確かに、近いといえば近いかもしれない。でも休み中に狼谷くんと会っていたから耐性もついてきたし、かなり今更だ。
「パーソナルスペース許したらだめだよ。ちゃんと警戒しないと」
「だ、大丈夫だよ。今までも全然平気だったし……」
「今まで?」