能ある狼は牙を隠す
それは一体どういう雰囲気なんだろう!?
狼谷くんのお家で接していた時の感覚でいたから、距離感を問われてもいまいちピンとこない。
というかそもそも、前まではどんな距離感だったのかを思い出せない。
「教室では気を付けなよ。みんな見てるから」
「う、うん……分かった……」
具体的にどう気を付ければ良いのか分からないけれど。
とりあえず大人しく頷いておくことにする。
「それはそうと、文化祭用の作品の方は順調?」
私の返答に満足したのか、カナちゃんは話題をあっさり変えた。
彼女が話しているのは、部活のことだろう。私とカナちゃんは美術部に所属している。
「うーん……そこそこ、かなあ。全然余裕はないけどね」
「まあ私も人のこと言えないけど、共同制作もあるわけだし、個人作品は早めに仕上げないとね」
文化祭ではクラスごとの出し物の他に、部活動ごとの出し物もある。といってもそれは文化系の部活に限った話だ。
美術部は毎年作品展示を行っていて、部員の絵を飾るのがお決まりだった。それに加えて、部員全員で大きな一枚絵を完成させるのが伝統になっている。
「去年は先輩に助けられて何とかなったよね〜、今年もこの時期がやってきちゃったか」