能ある狼は牙を隠す
肩をすくめるカナちゃんに、私も少しだけ憂鬱な気分になってしまう。
作品作りが嫌なのではなくて、時間に追われるのが辛い。
単純に一つのことだけに集中できるなら問題はないけれど、クラスの方も準備はしなきゃいけないし、今年は文化委員の仕事もある。かなりハードモードな予感はしていた。
「今週から部活週二だって。それと、毎日放課後、美術室開放してくれるみたい。使いたかったら使えって、部長が」
「わ〜〜ありがたい……」
両手を合わせて宙を拝む。物腰の柔らかい、ふんわり美人な我らが部長の姿を頭に思い描いた。
「私たちも先輩になっちゃったわけだし、後輩の面倒みてあげないとねえ……」
と、そこまでぼやいたカナちゃんが、ふと視線を上げる。
「あ、そういえば犬飼くんが駄々こねてたけど? 羊が構ってくれないって」
「え? ええと、その時は急いでたから……」
犬飼くんとは、部活の後輩だ。人懐っこくて部員みんなから可愛がられている。
この前たまたま彼とすれ違った時に、絵のアドバイスを貰いたいとお願いされたのだけれど、その時はちょうど文化委員の仕事があったのだ。
「まあ次会ったらちゃんと見てあげなよ。可哀想なくらいしょぼくれてたからね」
そんなカナちゃんの言葉に頷いて、私は曖昧に笑った。