能ある狼は牙を隠す



色画用紙にすずらんテープ、マッキーペン。
教室の床や机の上で無操作に散らばるそれらが、カラフルで目に鮮やかだ。


「あ、白さん! おかえり〜」


教室の入り口で立ち尽くしていると、九栗さんがひらひらと手を振ってくる。
彼女に歩み寄りながら、私は口を開いた。


「お疲れ様。ごめんね、あんまりこっち手伝えなくて……」

「あはは、気にしないで。二人が忙しいのはみんな分かってるからさ」


二人、というのは私と狼谷くんのことだろう。まさに今も委員会の仕事の真っ最中だった。
ああそうだ、とここまで来た目的を思い出す。


「あの、段ボール余ってたりするかな。できれば新聞紙も……」


色塗りをしている時に、下に敷いておくものが欲しい。
狼谷くんは今頃立て看板の移動をしていると思う。力仕事は男子に任せろ、と笑い飛ばした先生の顔が浮かんだ。


「新聞紙は沢山あるよ。段ボールは……ええと、ちょっと待っててね」

「うん、ありがとう」


教室の奥に駆けていく彼女にそう伝え、私は一息つく。


「あ、白さん」

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