能ある狼は牙を隠す
真っ直ぐぶつかる視線に、思わず怯む。
獰猛だし、物騒だし、やっぱり穏便にはいかなさそうだ。
狼谷くんはおもむろに前髪をくしゃりとかきあげて、苦々しく笑う。
小馬鹿にするような、意図的に貶めようとするような笑い方。
「言っとくけどこれ、ただの寝不足と貧血。昨日遅くまで『お友達』と遊んでたの。ちょっと激しかったから疲れちゃってさ?」
羊ちゃんには刺激強すぎたかな。
そう言いつつ目を細めてこちらを見る彼に、私は息を吐いた。
「……そっか。じゃあ尚更ちゃんと休んだ方がいいんじゃないかな?」
わざとらしく屈んで私に視線を合わせていた狼谷くんが、その姿勢のまま固まる。
私は彼の頬を軽くつついて、肩をすくめた。
「すっごく顔色悪いよ、見ててしんどくなるくらい」
あまりにも頑なだから、確かにこれ以上は本当に余計なお世話になってしまうかもしれないけれど。
「自分の体を一番労わってあげられるのは自分だけだからさ。昨日頑張った分、今日はお休みあげてもいいんじゃない?」
ね? と苦笑して彼の瞳を覗き込む。
狼谷くんは呆気に取られたように私を凝視していた。
「……あ、じゃあ私戻るね」
未だフリーズ状態の狼谷くんにそう声をかけて、私は足早に体育館へ戻った。